大阪家庭裁判所堺支部 昭和42年(家)908号 審判 1968年4月11日
申立人 川和松子(仮名)
相手方 川和春海(仮名)
主文
相手方は申立人に対し、即時に金一五万八、四〇〇円および昭和四三年四月以降夫婦同居または離婚判定確定に至るまで毎月末日金二万六、四〇〇円づつをそれぞれ当庁に寄託して支払え。
理由
第一申立の趣旨
「相手方は申立人に対して生活費・医療費として毎月金二五、〇〇〇円を支払え。」
第二審判に至る経過
1 当庁昭和四二年(家イ)第一九九号離婚調停事件(申立人松子相手方春海)同年一〇月不成立
2 昭和四二年一〇月二三日本件申立(前件の経過に徴し、職権により調停に付することをなさなかつた。)
第三認定事実(記録添付の認定資料並びに調停経過中における当事者の態度による)
(一) 申立人と相手方は昭和四一年四月一五日婚姻届出をなした夫婦で、申立人は同日相手方および先妻秋子(後婚の約一年半前死亡)間の長男章(昭和三〇年一月三一日生)および同長女文子(三五年一〇月二四日生)を養子としたものである。
(二) 申立人は生さぬ子のいる結婚生活に対し、危惧の念を抱かなつたのみか、むしろ自信と抱負を有して、この生活に入つたにもかかわらず、元来感受性に強く、好き嫌いの差の激しい申立人は先妻が病弱であつたため甘やかされて育つた子のさ細な駄々にも卒然として激怒し、時には手が子の頭上に飛ぶこともあり、ために子等をして、或は申立人に反抗し、或は脅えるに至らしめた。
(三) 相手方はかかる母子関係の心理的困難に対処するに、結婚当初は悪条件にもかかわらず結婚してくれた妻として好遇するというだけの消極的態度だけで、更に継母子間の心理的打開の積極的方策に出でなかつたばかりか、事態平静を欠いた後は、かかる母子関係についての近親者的苦慮から発したとはいえ、通常の程度を超えた相手方家庭への干渉としか申立人に解しえなかつたていの相手方の叔父川和勝の相手方に対する意見注入が強力に相手方の意思形成に作用し、その結果妻を理解しこれと協調しようとする意思を失うに至つた。而して家計上にあつては、相手方は支出の個々についても申立人に対する監視を怠らず、たまたま昭和四一年八月台所用品の不足を補う購入費のかさんだことがあつてからは、従来の給料袋そのままを妻に手交する方法を廃して、小出しにしか生活費を支給しなくなつた。
(四) 前記のように申立人と相手方および子等との間が尖鋭化していた折も折とて、同川和勝が同章の小学校卒業祝として申立人の母ヌイの買い与えた腕時計を中古品と評して、それが新品であつたことが判明したにもかかわらず、相手方は申立人に対し「お前は子供が憎いため、時計の中身を取替えたのであろう」と言つたことから、遂に申立人は全く夫の性格と夫婦生活に絶望感を抱いて、四二年四月○市○○○町○○○の自宅においてガス自殺を企てるに至つた。その結果は未遂に終り、その後同市○○町○の□□○○病院を退院帰宅してみると、相手方が行方も告げず転居して了つておるので、一時申立人の兄井上一郎の家に寓居し、同年八月以降○○市○○○区○○町○丁目○の○にある林利一管理アパートの一室(四畳半一間)を借受け(賃料一ヵ月五、〇〇〇円権利金四万円、あつ旋料五、〇〇〇円)居住し、疾病(腸結核・不整脈・坐骨神経痛)治療とガス中毒後遺症によるか原因不明の目眩検査の脳波テスト受診とのため引続き前記病院に通院し、只管静養につとめている。前記病状により就職していない。
同アパートに引越して後一一月に至るまではアパートと兄宅を往来していたが、その月以降は専らアパートに居住しているので四二年一一月中の通常生活費(家具費を除く)は二三、〇〇〇円を上廻る。而してその他医療費平均月額は五、七〇〇円(四二年八月八、九七九円(第一回脳波テスト料を含む)、九月四、三五〇円、一〇月四、五九〇円および一一月(二四日まで、第二回同テスト料を含む)四、九一四円)である。上記費用はすべて同女の兄井上一郎(○市○○○町○丁○○○)の援助を受けて支払つている。
(五) 相手方は、申立人が自殺未遂に終り入院するや直ちに子等の転校手続をとり、申立人に一片の通知もなさずに冒頭掲記の文化住宅(六畳、三畳、台所で賃料月八、〇〇〇円)に転居し、朝食は子二名と摂り、子等の夕食だけ同勝方で世話を受けつつ(食費一万円を要求されているところ、八、〇〇〇円のみ支払う)○○市○区○町□○○商事株式会社に勤務している。而して相手方の昭和四二年中における収支は次のとおりで、月収実額は金七七、〇一九円となる。
(イ) 給料賞与総額 一〇四万六、五〇〇円
(ロ) 所得税額 三万五、五〇〇円
(ハ) 社会保険料 四万八、二〇八円
(ニ) 生命保険料 一万二、七一〇円
(ホ) 損害保険料 一、三五〇円
(ヘ) 住民税 二万四、五〇〇円
按ずるに、叙上の事実に照すと、申立人の婚姻費用中の通常生活費の分担請求権の成立を阻害するに足る事由ありとは認め難く、また婚姻費用中に当然含まるべき配偶者たる申立人の療養費につき相手方は所謂びた一文も支払うことを峻拒するも、その正当な事由を主張するところなき本件にあつては、相手方は申立人につき必要とする療養費を含める婚姻費用負担の義務を免れえざるべく、而して申立人は病弱にして就職できない状態にあるので、自己の前記費用分担の義務はなく、相手方は療養費についてはその全額の負担、通常生活費については相手方の生活水準に相応する一定額の負担の夫々義務すなわち法律上いわゆる婚姻費用分担義務ありといわなければならない。
さすれば、相手方は如何なる程度において分担義務を負うやにつき検討すると、その負担限度額は、「夫の実収額から妻の療養費額を控除した残額に、生活保護法による双方生活基準額の比率中の妻の分を乗じた金額に療養費額を加算した金額」を以て相当と解する。而して第二三次生活保護基準改定表(昭和四二年五月一日大阪市実施)に準拠して別表のように計算すると、相手方の同分担額は次のとおりである。
(一) 昭和四二年一〇月(申立月)から四三年三月にいたるまでの履行期到来分(一ヵ月分の割合は次の(二)のとおり)合計金一二五、四〇〇円
(二) 同四三年四月以降毎月金二〇、九〇〇円(端数八二円は一〇〇円と計上)
さすれば、相手方は申立人に対し、即時に前記金一五八、四〇〇円および昭和四三年四月以降夫婦同居または離婚判決確定に至るまで毎月末日金二六、四〇〇円づつを夫々支払わねばならない。本申立は正当としてこれを認容し主文のとおり審判する。
(家事審判官 井上松治郎)